まず米、そして野菜

最初は離乳食の記録、途中からは読書の記録。

初めて自分で探し出した本。「でんしゃにのったよ」岡本雄司著

 図書館の絵本コーナーにコハシを連れて行ったとき、私も初めて図書館に来たような気分になった。この町に住み始めてからいままで、子供向けコーナーには来たことがなかったからだ。絵本の並びは独特だ。普通なら著者名で五十音順に並んでいるところが、タイトルで五十音順だったり、対象年齢別に分かれていたり、テーマ別になっていたりする。どこからどう探せばいいのか、しばらく呆然と本棚の間をさまよった。定番のアレも有名なあの人の著作も見つからない。検索機で探すにも、横から手を出してくるコハシを止めるのに忙しくて進まなかった。通い慣れたつもりの図書館が知らない場所のように思えた。

 コハシはふらふら好き勝手に歩き回って、小学高学年向けの地下鉄の図解と、小学低学年向けの電車の本を数冊、それから幼児向けの絵本をあっという間に選び出した。私が本の海で迷子になっている間に、目的に合致する本を的確に選んでいる。文字が読めないのになんなんだ、その嗅覚。すごいな。

 早速、子供コーナーの小さな椅子に座って読む。やはりコハシの心を捉えたのは幼児向けの絵本だった。中でもこの「でんしゃにのったよ」への食いつきは強かった。お母さんと小さな男の子の二人連れが、ローカル線から新幹線へと電車を乗り継いで、東京に出る様子が描かれている。電車の描写は迫力があって、表紙のかわいらしい印象がいい意味で裏切られた。大きくカーブしながら鉄橋へ突き進む電車の、ダイナミックなうねり。ターミナル駅の、がらんと広い空っぽのホーム。そのホームに現われる、大きな大きな新幹線。コハシは声を上げて喜んだ。風景の中にも、貨物列車があり、山手線や京浜東北線などの通勤電車があり、東京駅ではいろいろな新幹線が一同に並び、とサービスシーンたっぷりだ。コハシはホーム→新幹線登場のページを何度もめくってうっとりしている。よし、借りて帰ろう。

 貸し出し手続きの意味がさっぱり分からないコハシを何とか説得して(持って帰るのが大変な分厚い大型本を諦めてもらわなければならなかった)、この本を含めた数冊を借りた。家でも一番読み返したのはこの本だ。繰り返し読んでいくうちに、コハシにも話の流れがつかめるようになった。男の子とお母さんは、地方の小さな町に住んでいて、そこから電車を三つ乗り継いで、東京に住むいとこに会いに行くのだ。お父さんは地元の駅まで車で送ってくれて、改札でバイバイする。コハシはそのシーンを「おとうさんは、おしごとだから、おるすばん」と理解した。他にもいろいろと独自に理解を深めた。のりかえは、はしったら、だめ。おべんとうをかったら、かいだんは、ゆっくりのぼらないと、あぶない。おかあさんは、つかれたから、しんかんせんで、ねちゃう。……そうだね、私もたぶん寝るわ。いとこの家族は東京駅まで車で迎えに来てくれている。このお母さんはさぞ助かっただろう。東京駅からまた乗り換えだったら辛いよね。いとこの家の車はかわいい形をしていて、電車と同じくらい魅力的に見える。久しぶりに会った親戚と乗る「ぼく」はとても楽しそうだ。

 この本が最初に出たのは2009年。描かれている風景は20年くらい前のものに見えるけど、いつが舞台なのかなあ。モデルになった電車は、ネット上の電車好きさんたちが読み解いてくれているところによると、最初に乗ったローカル線が大井川鉄道で、最初の乗り換え駅は金谷。そこから東海道線のかぼちゃ電車に乗って、静岡駅から乗っているのは300系こだまだそうだ。分かる人なら、電車や車の車種からこの絵本の舞台となった年代も推測できるだろうけれど、私はちょっと分からない。

 実在の電車たちを端正な線で描写したこの絵は、木版画によるものなのだそうだ。とても素敵だ。この作者の絵本をもっと読んでみたくなったけれど、もう一冊の著作「くるまにのって」は残念ながら出版社在庫なし。地元の図書館には閉架書庫に一冊だけあるようだ。万が一コハシが傷めてしまっては申し訳ないので、借りるのはもう少しコハシが大きくなってからにしようと思う。

 コハシは、毎日寝る前にこの本を読みたがった。読むたびに楽しむポイントが変わる。海沿いの工場で修理中の車を見つけたり、駅ナカのお弁当屋さんを見たり、飽きることがない。図書館に返した後も「ない、ない」と探し回っているので、これはもう買うしかないな、となった。よし、買おう。手元に置いて何度でも読もう。ホームに入ってくる新幹線を見て、何度だって声を上げよう。そうして手に入れて半年以上がたった。コハシは昨日もこの本を楽しんだ。

でんしゃにのったよ (こどものとも絵本)

でんしゃにのったよ (こどものとも絵本)

 

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