まず米、そして野菜

最初は離乳食の記録、途中からは読書の記録。

私が気付きたかったのに。「しゅっぱつ しんこう!」山本忠敬 著

 一つ前の記事で取り上げた「でんしゃにのったよ」は、この「しゅっぱつしんこう!」のオマージュではないかと勝手に想像している。どちらも出版社は福音館書店。前の「でんしゃにのったよ」の発表は2009年で、内容は「ぼく」とお母さんが山あいの町から電車を3つ乗り継いで東京の親戚に会いに行くというもの。こちらの「しゅっぱつ しんこう!」は1982年の作品で、「みよちゃん」とお母さんが電車を3つ乗り継いで都会から山あいの町のおじいさんに会いに行く話だ。鉄橋など、出てくる舞台にも共通点は多い。

 だが、読んだときに受ける印象はかなり違う。並べて読むと、同じ題材でも作者が変わるとこうも違うのだなあ、と贅沢な気分になれる。コハシに「でんしゃにのったよ」を贈るとき、この「しゅっぱつ しんこう!」も一緒に買ってきた。ほぼ毎日2冊とも読まされるので、毎日毎日贅沢な気分だ。「都会/田舎」の地理感覚がないコハシは、この2冊を全く別の話として楽しんでいる。

 山本忠敬さんの絵は、大人っぽい。リアルで、硬質で、甘さが少なくて、乗り物が持つ質実剛健な魅力が伝わってくる。

 絵の構図もかっちりと決まっている。鉄橋の上で電車がすれ違っているところなど、鉄道会社のポスター写真のようで、とにかくかっこいい。東洋経済オンラインが山本忠敬さんを紹介した記事 《鉄道マンを育てた「幻の絵本」がついに復刊! 乗り物絵本の第一人者が描いた「山手線一周」》 に、編集のかたの「若い頃歌舞伎が好きだった山本先生は、大事な場面では乗り物が読者に語りかけるように『見栄を切らせる』のだとおっしゃっていた」という発言があって、なるほどと思った。これは電車が見栄を切っていたのか。

 みよちゃんたちが電車を乗り換えるたびに「しゅっぱつ しんこう!」という決め台詞が入るが、そういえばこれも歌舞伎の掛け声に似ている。コハシはこぶしを振り上げて、私の音読に唱和する。「とっちゅーれっしゃ、しゅっぱつ、しんこう!」と、勇ましい顔で叫ぶ。

 作者ご本人の解説によると、この絵本は「取材の旅での私の心象の風景と時間の中を走っている列車の架空の旅のお話」なのだそうだ。仙台から特急はつかりに乗って、山のふもとの盛岡駅へ。山田線の急行に乗り換えて山の中の茂市駅まで行き、岩泉線の鈍行で、おじいさんの待つ浅内駅へ向かう。平野から山へ。風景の中には新幹線あり、飛行機あり、牛(!)ありで、とてもとても楽しい。

 タカハシはこの絵本を見て「ずいぶん渋い絵を描く人だなあ」と言った。知識量でタカハシに勝てることがあまりない私は、ここぞとばかりに得意になって「乗り物絵本といえば山本忠敬さん、山本忠敬さんといえば乗り物絵本、というほどの作家さんだ。覚えておくべきだ」と熱弁をふるった。ふるってやった。さらに「君も子供のころに読んだことがあるのではないか。代表作の『じぷた』の名を聞いたことはないか」というと、タカハシは「聞いたことはない。が、『じぷた』というのはこのページに描かれている『ZIPUTA』のことか」と、この本の最初の見開きを指し示した。驚いて見てみると、はくたかに乗り込むみよちゃんたちの手前、急ぎ足の通行人が「じぷた」のTシャツを着ているではないか。

 なんだこのTシャツかわいい。すごくかわいい。欲しい!

 動揺する私を見てタカハシは「これを見落としているとは、好きだという割には読み込みが浅いのではないか」と鼻で笑った。ギイイイイイイイイイイイイ悔しい。私が! 私が先に気付きたかった!!

しゅっぱつしんこう! (福音館の幼児絵本)

しゅっぱつしんこう! (福音館の幼児絵本)

 

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