まず米、そして野菜

最初は離乳食の記録、途中からは読書の記録。

もっと振り回されたかった。「アル どこにいるの?」バイロン・バートン 著

ポップな絵柄とカラフルな色彩の絵本。犬の「アル」が迷子になってから、飼い主の男の子に再会するまでの顛末が、言葉少なく描かれています。童話館ぶっくくらぶでは1〜2歳向けに配本されているとか。明るく、楽しい絵本です。

だから今からここに書くことは、私の身勝手な感傷でしかありません。私の義妹、犬橋の話をします。

アルどこにいるの?

アルどこにいるの?

 

犬橋は、タカハシの実家にいたビーグル犬です。コハシが生まれた時には既にかなりのおばあちゃんで、コハシが一緒に遊べる頃にはもっとおばあちゃんになってしまって、それでもよく付き合ってくれました。いろいろ患いながらも、 ずっと元気でいてくれて、数年前の夏の夕方に眠りにつきました。17歳でした。

犬橋がいなくなってから初めて帰省したのは、その年の暮れでした。荷造りのとき、持っていく絵本をコハシに選ぶように言ったら、乗り物の本を数冊と、この本を本棚から持ってきました。

それらを荷物に詰めてタカハシの実家に行くと、義父が犬橋のお墓に案内してくれました。庭の端っこの、日当たりの良い、道がよく見えるところに、犬小屋のミニチュアのようなものができていて、中に犬橋の好物が供えられていました。
「犬橋はいつもここで道をパトロールしていたからなあ」と義父が言い、
「犬橋、寝ちゃったから、もうお散歩しないんだよねー」とコハシが言いました。

夜、客用布団に寝転んで、この本をコハシと読みました。義母はいつも、私たちのために、よく日に当てたふかふかの布団を用意してくれます。シーツも洗いたてです。犬橋はその布団が好きでした。義母の目を盗んでは、真ん中の一番ふわふわのところに寝転がって、ぺたんこに潰して、シーツを毛だらけにしました。よだれも付けました。犬橋のよだれは、ちょっとなまぐさい。それで義母にいたずらがばれます。犬橋は爪をチャッチャッと軽やかに鳴らしながら義母から逃げて、タカハシや義父の後ろに隠れました。逃げ足はのんびりでした。

この絵本の「アル」の走りは速そうです。垂れ耳を翻して、男の子と力いっぱい遊んでいる。絵本は、夢中になって遊ぶうちにお互いを見失うところから始まります。

見開きの左側のページに男の子。右側にアル。ばらばらになってしまった二人の様子が、同時進行で描かれます。それぞれが不安げに一夜を過ごし、明くる日はお互いに街中を走り回る。1ページ前に男の子が迷い犬の貼り紙をしたと思ったら、次のページではその貼り紙の前をアルが走り過ぎるという具合に、韓国ドラマと見紛うすれ違いを見せます。コハシからは「ここ、さっき男の子がいたのに見えなかったのかなあ」「なんで待たないの?」とコメントが飛んできますが、地の文がない絵本なので、都度てきとうな話をつくって答えます。

アルの傍若無人な走りに周囲はどんどん巻き込まれて大変なことになってしまうのですが(自分がこの子たちの親だったらと思うと恐ろしい。謝罪……弁償……)1人と1匹はそんなことおかまいなし。お互いの姿を見つけて脇目も振らず駆け寄ります。抱きつく男の子。飛びつくアル。2人の嬉しそうな顔と言ったら!

犬橋とコハシがこんなふうに遊べたのは、ほんのわずかの時間でした。コハシは幼すぎたし、犬橋は歳をとりすぎていた。貴重な時間だと分かっていたから、2人に振り回されるだけで私たち大人は嬉しいばかりでした。でも、この絵本の大人たちのように、嫌になるくらい振り回されてみたかったなあとも思います。犬橋とコハシのいたずらに、義母と私で「まったくもう!」と怒ったりしてみたかった。私たち大人そっちのけで楽しそうにくっつく犬橋とコハシを、もっと見ていたかった。

コハシがふかふかの布団に埋もれるように寝入ったあと、布団の匂いを嗅いでみました。いくら嗅いでも、どこからも、いい匂いしかしませんでした。