まず米、そして野菜

最初は離乳食の記録、途中からは読書の記録。

怖いオオカミと、図鑑のティラノサウルスについて。 「おまえうまそうだな」「きみはほんとうにステキだね」宮西達也 著

前回の恐竜図鑑の続き。

コハシは、図鑑を読んだり動画を見たりしているうちに、肉食恐竜と草食恐竜を見分けられるようになった。見分けが付くと楽しいよね。恐竜図鑑を見ていても「これは肉食、これは草食」と口に出して、「合ってる?」と大人に確かめては得意げにしている。滅多に外さない。すごいすごい。

ところが、あるときから「これは肉食だから悪いやつ」「これは草食だからやさしい」と言うようになった。

おっ、そう来たか、と思った。

コハシがその言い回しをするようになったきっかけは、保育園で借りた宮西達也さんの恐竜絵本だ。散々恐竜コンテンツに触れてきた中で、初めての変化だった。それだけ鮮烈な印象を受けたんだろう。

私たちが読んだのはこの2冊。 
どちらも主人公はティラノサウルス。肉食恐竜だ。

おまえうまそうだな (絵本の時間)

おまえうまそうだな (絵本の時間)

きみはほんとうにステキだね (絵本の時間)

きみはほんとうにステキだね (絵本の時間)

この2冊には、肉食恐竜は凶暴で狡猾、魚食・草食恐竜は善良で純真という「お約束」がある。物語は、この「お約束」を前提に展開する。物語のはじめ、主人公のティラノサウルスは「あばれんぼうでいじわるでずるくてじぶんかってなきょうりゅう」だし、途中で出てくる脇役の肉食恐竜も、同じような性質の生きものとして描かれる。

2冊の物語は、それぞれ筋は違えども、主人公が「あばれんぼうな恐竜」という枠組みをはみ出して、「やさしい恐竜」と触れ合うことで思いやりを獲得していく、という流れになっている。

主人公の改心は、ほかの恐竜をいじめること(≒狩り)をためらったり、優しくしてみせたり(≒捕食しない)と、肉食恐竜としての行動を否定することで表される。その上、主人公のティラノサウルスは、木から採った「赤い実」を食べさえもする。この「赤い実」を介して、主人公と「やさしい恐竜」との関係はますます深まっていく。

これらのエピソードのひとつひとつが、力強い絵柄と相まって、とにかく説得力が強く、印象的なのだ。

コハシさんが「肉食恐竜イコール悪いやつ」となったのも分かる。よく分かる。……分かるけど、どうしたもんかなあ。

昔話でおなじみの、怖いオオカミ、ずるがしこいキツネ。物語の中でなんらかの性質を仮託された「オオカミ」と、図鑑に出てくるオオカミ、実際に生きているオオカミは違うはずだ。でも、なにがどう違うんだっけ。なんて説明したらいいんだろう。そもそも説明する必要があるんだろうか。「ティラノサウルスが暴れん坊だっていうなら、エラスモサウルスもなかなかの暴れん坊だったと思うよ」とでも伝えるの? それに、あの赤い実、両者の関係性を象徴する道具立ての意味合いが強いあの「赤い実」も、「ほんとのティラノサウルスは植物食はできないんだよ。でも、食べられなくても悪いやつってわけじゃないんだよ」とか言えばいいのかな? 無粋じゃない? 無粋な上に本質から外れてない?

結局、私は、「ええと……肉食だから悪いやつってわけじゃないんだよ……むにゃむにゃ……」みたいなことしか言えなかった。

そんな寝言みたいな言葉でコハシに伝わるか! 相手は映画化したくらい強い物語だぞ!

 

伝わりませんでした。

伝わらなかったけど、ほかの恐竜絵本をいろいろと読んでいるうちに、ひとりでに「肉食恐竜だから悪いやつ」と言うことはなくなりました。