まず米、そして野菜

最初は離乳食の記録、途中からは読書の記録。

1000000000000匹の猫のバトルロワイヤル。「100まんびきのねこ」ワンダ・ガアグ 著、石井桃子 訳

前回の更新からずいぶん間が空きました。それというのもコハシの保育園が絵本の貸出を始め、急に読む絵本の種類が増えたからです。読んでいる。凄い勢いで読んでいる。そして記録がちーとも追いつかない。しかたない。しかたないんだ。 

最近のコハシは物語を物語として楽しめるようになり、「長い絵本がいい」と文字が多めの絵本を選ぶようになりました。まだ自分では読めないので、その「長い絵本」は、私が音読することになります。コハシは注文が多い。早口で読めばクレームが付いて、最初から読み直しです。とにかく厳しい。 

この『100まんびきのねこ』も、文字が多そうだという理由で保育園から借りてきた。 

100まんびきのねこ (世界傑作絵本シリーズ)

100まんびきのねこ (世界傑作絵本シリーズ)

 

主人公は、表紙中央に描かれているおじいさんだ。猫を飼いたいおばあさんのために、おじいさんは猫を探しにゆく。表紙以外の絵は白黒で、細い線でみっしりと描かれている。見開きいっぱい、いくつもの丘を越えて細く長い道が蛇行している絵は、見ているとどこか不安を覚える。落ち着かない。 

その道の先にいるのが、“ひゃっぴきのねこ、せんびきのねこ、ひゃくまんびき、一おく、一ちょうひきのねこ”だ。驚くおじいさんの前に、見渡す限りにひしめく、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。

異様である。 

先が気になって、コハシがうとうとしているのをいいことに無言でページをめくったら、その時だけカッと目を開いて「読むの早い!」と叱咤してきた。厳しい。 

おじいさんはどの猫もきれいでかわいく思えてしまって、”そこにいるねこをみんなひろいあげて、つれていくことに”なってしまう。気持ちは分かるが安易な多頭飼いは不幸のもとだぞ。大丈夫かおじいさん。黒くねっとりとした線描も相まって、話運びにも不穏な空気が漂う。なんだろう、この本は。不気味なのにユーモラスで、目が離せない魅力がある。

この独特な世界を描いた作者がアメリカ人だと知って意外に思い、出身地が東欧系移民が多い地域だと知って、なるほどそれでこの作風なのかしらと分かったような気持ちになった。“ガアグ(Gág)”という聞き慣れない名字は、ボヘミア出身の父親のものだそうだ。

リトグラフにも手描きにも見えるけど、なにで描かれているんだろうなあ。日本語だけではよく分からなかったので、どなたかご存じでしたら教えてください。私に分かったのは、この本が1928年に出版されたことと、どうやら初めて見開きで描かれた絵本だということ。なんてこった。エポックメイキングな1冊ではないですか。

物語は、見開きをうねるように流れながら、怒濤の展開を見せる。おじいさんちの飼い猫の座を賭けて、“ひゃっぴきの(略)、一おく、一ちょうひきのねこ”が、一斉にけんかを始めるのだ。画面いっぱいにひしめきあう猫のけんかシーンはさながら黙示録、その大騒動ののちに大量の猫は突然消えうせ、周囲は静まりかえり、残ったのはたった1匹。……バ、バトルロワイヤルだー。

その後の絵からはすとんと不気味さが抜けて、左右対称の安定感のある構成になり、残った子猫の姿は平和そのもの、最後のページの寝姿は特に愛らしく、印章の柄のように落ち着いて見える。見れば見るほどよくデザインされた絵だなあ。

うとうとしていたコハシは、この怒濤の展開をどう聴いていたのか、はたまた聴いていなかったのか、最後に残った子猫について「なんでこのねこ汚れてたの?」と言い、「なんでかは分からないけれど、いまはご飯をたくさん食べて、元気になって、よく寝ているね」と最後の寝姿を見せながら応えたら、納得したのかもごもご何かを呟いて、こてんと寝ました。

 

www.wandagaghouse.org

↑作者の生家が資料館になっている。作品の概要なども。

Wanda Gág papers, 1892-1968

ペンシルベニア大学のワンダ・ガアグ紹介ページ。英語。ここをちゃんと読めば私の知りたいことが書いてありそうな気がするがまだ読んでいない(読めない)。